コンセプト

 
伝奇ミステリのストーリーにおいて、青戸唐次と紫坂一に物語の幕開けを告げたのは、一本の電話と一通の手紙でした。共に東京に暮らしながら、赤ツ鹿という見知らぬ土地へと呼ばれ、そこで初めてお互いの存在と、自分たちが六つ子の兄弟であることを認識した二人。言い換えれば、電話/手紙は「東京と赤ツ鹿」「二人の時間」「二人の運命」を繋ぐ重要なアイテムとして機能した、とも解釈できます。

 

 電話/手紙と深く関連し、場所・時間・人と人を繋ぐ力の宿るものとして挙げられるのが、挨拶の言葉です。手紙においては「前略・草々」、電話においては「もしもし」、日常会話においては「こんにちは」「さようなら」など、挨拶には多くの種類があります。しかしそのどれもが、場面と場面、ある時間とまた別の時間、ひいては言葉を交わす人と人の間を結びつける役割を持っています。

 

 そこで当アンソロジーは、挨拶を通して、二人が紡ぐ日常を一片ずつ掬い上げることを目指します。タイトル『結ぶ』には、会話や物語を締めくくる、複数の作品を一冊にまとめ上げる、そして二人の生きる空間・時間・運命を結びつけるという意味合いを込めています。

 

 父の失踪をきっかけに異郷で出会い、兄弟としてたどたどしく歩み出した青戸唐次と紫坂一。執筆者の皆様の作品を通して、二人の日常と日常、運命と運命が交わる瞬間をお楽しみいただければ幸いです。